2012年4月7日土曜日

いぬと暮らそう - 遺伝学について


遺伝学とは、生物の遺伝現象を研究する生物学の一分野で、遺伝とは世代を超えて形質(遺伝子の違いによって現れる違い、つまり性質)が伝わっていくことです。
遺伝学はとても難しい内容で専門用語も多く、素人では理解しがたい部分も多くあります。
細部まで認識しようと思うと獣医師や、専門家レベルになると思いますが、犬のことを考え、最良のブリーダを目指すなら頭に入れておきたい事柄です。
難しい言葉をわかりやすく説明していきましょう。

■優性遺伝と劣性遺伝について
この字を見て、優性が優れている、劣性が劣っていると考えるのは間違いです。
もっとわかりやすく説明するために人間の血液型で説明していきましょう。

まずヒトの血液型のA型、B型はともに優性だということと、O型はA型に対しても、B型に対しても劣性だということを頭に入れてください。
A型、B型はともに優性で、この両者には優劣はありません。
簡単に説明すると優性の血液型は強く、劣性の血液型は弱いということです。
だからといって劣性のO型が悪いという意味ではありません。
もっとわかりやすく説明してみましょう。

遺伝子とは、いわば生物の形を作る設計図のようなものです。
ヒトの遺伝子は必ず2枚の設計図がペアの形で存在します。
仮に1-@という遺伝子を持っている男性がいるとします。
そして2-Aという遺伝子を持った女性との間に子供が生まれたとします。
彼の精子は1か@のどちらかの設計図しか持っていません。
精子は1と@をつないでいたベルトを切って、片方だけの設計図を持ってきます。
同様に女性の卵子も2かAしか持ってこないのです。
この精子と卵子が受精するとそれぞれの設計図が再びベルトでつながってペアとなり遺伝子となります。
もし1をもった精子と2をもった卵子が受精したなら、生まれる子は1-2という形の遺伝子を持つことになるのです。
精子が1を持ってくるか、@を持ってくるか、
卵子が2を持ってくるか、Aを持ってくるか、
そして、どの精子がどの卵子と受精するかによって、子どもの遺伝子は決まります。
このパターンは1-2、1-A、@-2、@-Aの4種類になります。これが、遺伝の仕組みです。
子供は父方から1種類、母方から1種類の遺伝子を持ってくるということが分かって頂けたと思います。

遺伝情報の中に病気などの因子があっても、2枚の設計図の片方だけにその情報が記録されている状態であれば、それは現れないのですが、この設計図が2枚そろうと、その因子の性質が表面化するものがあります。
これを"常染色体劣性遺伝"と呼ぶのです。

たとえば、精子1-@があり、@に病気の因子があるとします。卵子2-AではAに病気の因子があるとします。
上記の4パターンから見ると、父方からも母方からも病気の因子を受け継いだ@-Aは、両方の病気の因子を持って生まれてくるわけですから、今後確実に病気の症状が悪化すると考えられます。
その反対にどちらにも病気の因子がない1-2は病気にはなりません。
中間の1-Aや@-2は半分病気の因子を持って生まれてくることになります。
子供は父方から半分、母方から半分の遺伝子を持って生まれてくるというのを分かっていただけましたか?
それをふまえて血液型の説明をしてみましょう。

A型の遺伝子の形はAAとAO
B型の遺伝子の形はBBとBO
AB型の遺伝子の形はAB
O型の遺伝子の形はOO

父親がA型で母親がB型のときに子どもは、A型、B型、AB型、O型のどれでも可能性があります。
例えば父親がAOで母親がBOの場合、片方ずつ持ってくるということを考えると、AB、AO、BO、OOというパターンができる事になります。
ABはAB型とされ、AO、BOについてはA型、B型とされ、OOはO型とされます。
この場合、AOやBOにはOがついているのに、血液型はA型とB型になります。
AとBがOよりも表面化するという意味で、AとBは優性、Oは劣性とよばれることになります。
ですのでAとBが優れていて、Oが劣っているという意味ではないのです。
AとBはOよりもすこし表立って出るというのが分かりやすい表現でしょうか?

遺伝学では難しい言葉で表現されることが多々ありますが、AA、BB、OOなど隣り合わせの文字が同じものを"ホモ接合体"、AO、BO、ABなど違う文字の組み合わせを"ヘテロ接合体"といいます。

■遺伝性疾患の遺伝のパターン (常染色体劣性遺伝)
では遺伝性疾患(病気の因子を受け継いでいる)の遺伝のパターンを見てみましょう。

Affected 【アフェクティッド:発症(病気の症状が現れること)、罹患(りかん:病気にかかっている)している。疾患を起こす遺伝因子をペアで保有する】
carrier  【キャリア:発症しないが疾患を起こす遺伝因子を片方だけ持っている】
clear   【クリア:ノーマル。疾患を起こす遺伝子を持っていない】

クリア      × クリア     =100%クリア
クリア      × キャリア    =50%クリア、50%キャリア
キャリア     × キャリア    =50%キャリア、25%アフェクティッド、25%クリア
アフェクティッド × クリア     =100%キャリア
アフェクティッド × キャリア    =50%アフェクティッド、50%キャリア
アフェクティッド × アフェクティッド=100%アフェクティッド


どのように猫の年齢を伝えることができますか?

上記は一つの受精卵(1頭の子犬)が受け継ぐ遺伝パターンの確率であって、すべての子犬がこの割合で生まれるとは限りません。

ここで注意すべきことは、上記はあくまでも机上で計算できる割合であるということです。
つまり、例えばキャリア×キャリアの時に生まれた仔犬の数が8頭として、計算上では「4頭がキャリア、2頭がアフェクティッド、残り2頭がクリア」となるわけですが、必ずしもこの数字通りに結果が揃うとは限らないのです。
最初の繁殖の時、もしかしたら全部がキャリアかもしれません。
それで安心して次に同じ繁殖をした時、今度は半分の4頭がアフェクティッドになる可能性もあるということです。
あるいはその逆で、もしかしたら大変ラッキーで全てがクリアかもしれません。
これこそまさに「神の領域」です。
繁殖は良くも悪くも全てが計算通りにいかない、ということを念頭におくべきでしょう。
交配については、アフェクティッドとキャリアをできるだけ生み出さないよう心がける必要があります。
奨められる両親の組み合わせは上2段の交配だけですが、より完璧を求めるならクリア×クリアの組み合わせしかありません。
遺伝に関して少し分かって頂けたでしょうか?

1.純血種Aと純血種Bの犬が共に健康であると仮定し、この二匹を交配した場合、 生まれて来る子犬は遺伝子プール(遺伝子の構成)が大きくなるので、 同じ犬種間の子犬よりも健康になるでしょうか?
"健康"だけに関して言えば、2匹の健康な犬を交配するならその犬種が同じでも異なっていても、健康な子犬が生まれるでしょう。
ただし、この場合は劣性遺伝の問題を考慮していません。
先に"優性遺伝と劣性遺伝"のところでも説明しましたが、父方から片方の遺伝子、母方から片方の遺伝子を持ってくる上で、その持ってくる遺伝子に、病気の因子があるのかないのかで、子供の遺伝子は大きく変わってきます。
"雑種強勢(ヘテローシスともいう)"というものがありますが、これは2つの異なった種や系統の間で交配を行なった場合、その一代雑種(子供)が両親に比べて優るということで、父方も母方も病気の遺伝子を持っているにもかかわらず、うまい具合に病気の因子の無い遺伝子を一つずつ持ってきた場合、子供は両親よりも優るということがいえます。
つまり2匹の純血種の間に共通の劣性遺伝性疾患が無い場合は、劣性遺伝性疾患を持つ確率が小さくなるか無くなってしまいます。
逆に、父方からも母方からも病気の因子があるものを持ってきた場合は病気を発症するでしょうし、持ってきた遺伝子のどちらか片方だけに病気の因子があったと仮定すると、その子供本人が病気にならずとも、その子供の子供、つまり孫の代になって表れてきます。
子供の遺伝性疾患(病気の因子を受け継いでいる)の発生率は、両親の発生率と同じなのですが、孫の代では両方の犬種の劣性遺伝形質を持つ可能性が高く、劣性遺伝性疾患の発生率が高くなる傾向があります。
これらのことをふまえて、交配を考える上で、非常に重要な点は、病気の因子が入っている遺伝子は、たとえその子犬にあらわれなくても"除去されていない"ことです。
完全にアフェクティッドなら病気の症状があり、目に見えて病気と分かれば交配の対象にはならないと思いますが、キャリアのように疾患を起こす遺伝因子を片方だけ持っている場合、発症しないので、見た目が元気であれば大丈夫だろうという安易な考えのもと、調べもせず何も考えずに交配した場合、75%の確立で何かしら病気の因子を持って生まれることになります。
純血種、雑種関係なく遺伝的疾患を持った犬の交配が繰り返されると、病気の因子が除去されるどころか、広がっていくことはいうまでもありません。
責任あるブリーダーは犬が持っているかもしれない遺伝性疾患を探そうとし、また、慎重に交配することでそれを除去しようとしています。
これは大変難しいことですが、このような努力があるにもかかわらず、純血種の犬全部が遺伝性疾患を持っている!といわれるのは非常に皮肉なことです。
このように純血種に遺伝的疾患が増えてきたのも、悪質なブリーダーの身勝手な交配によるものだと思います。
純血種というブランドに執着し、最高の犬を作り出したい!と、何も考えずに交配させてはいけません。
純血種だから強く、雑種だから弱いという考え方は大きな間違いです。


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馬で少し説明してみましょう。
"サラブレッド"という英語には純血種という意味があります。
これは大変誤解されやすいのですが、純血だから強いのではなく、全くその逆で雑種だから強いのです。
人間の手によって今のサラブレッドが出来たわけですが、それが作られた過程からいっても、実はサラブレッドは馬という種の中の完全な雑種であるといえます。
その過程は優れたもの同士、遠縁の雑種を何代もかけて交配させてきたといわれています。
サラブレッドは雑種であるがゆえに強いのです。
しかし400年ほど前までは遠縁の交配が主であったようですが、現在のサラブレッドの交配は近親の交配が多くなっています。
本当に大切なことは、サラブレッドを作り出す過程でもみられますが、責任あるブリーダーが行っているように、病気の因子を除去することが大切です。
しかし現状では、純血種とされる犬種の遺伝的疾患を探す場合、血統を調べ、その両親、祖父母など先祖をたどることによって、遺伝的疾患を探し出し、除去することが可能ではありますが、雑種に関してはその両親を特定することも難しく、先祖に遡り疾患を追うということが出来ません。
遺伝的疾患を探すことが難しいとなると、当然ながらそれを除去するのも大変難しくなります。
また、純血種だからとか雑種だからと分けられることによって検査にも違いがあることも事実です。
ほとんどの雑種は単に検査をされていないだけだということにも気が付きます。
年老いて跛行(はこう:片足を引きずるように歩くこと)するようになっても、股関節形成異常とは考えられず、老化のためと見なされます。
年老いて盲目になったとしても、純血種ではPRAと診断されるでしょうが、雑種ではこれも老化だろうと考えられます。
現状では病状を見て、雑種については遺伝性の疾患かもしれないと疑うことをあまりしません。
すべての犬種において遺伝性疾患を疑わないといけないのに、雑種では単に、病気だとか老化だと片付けてしまわれがちです。
異なる純血種同士を交配させたとしても、事実上生まれてくる子犬は雑種になります。
生まれた犬が新たな犬種として認定、登録され、それが純血種といわれるようになるのですが、雑種の先祖も純血種だということを忘れないでください。
このことから、純血種であろうと、雑種であろうと、遺伝的な疾患は取り除かれない限り、延々と次世代に繰り越されることはいうまでもありません。

■二つの異なる純血種を交配するとき、どんなバリエーションが生まれるでしょうか?
純血種Cと純血種Dを交配させた場合、雑種CDが生まれてきます。
その子犬は純血種Cに似た子や、純血種Dに似た子などさまざまなバリエーションで生まれてきます。
あるCDはCよりの子、あるCDはDよりの子といった具合です。
先に述べた雑種CDと別の純血種CとDの間に生まれたCD、つまりCD同士を交配させたとします。
これは一般的には行われないし、行ってはいけないことですが、仮に雑種CD同士を交配させた場合、その子は、純血種Cにそっくりな子や、純血種Dにそっくりな子が生まれてくる場合があります。
わかりやすく説明すると純血種CとDの子CDは、両親の片方ずつに似ている子が生まれるのに、そのCD同士の子供はCDの両親(祖父母)にそっくりな子が生まれてくる場合があるということです。
純血種CとDの交配によって、純血種の遺伝子が混ざったのにもかかわらず、孫の代になって、見た目は完全な純血種Cや純血種Dが生まれてくるということです。
他の純血種同士を交配させているにもかかわらず、孫の代の子が祖父母にそっくりだからといって、そのCDの子を純血種Cだとか純血種Dだとかいうのは全くの間違いです。
容姿がそっくりだからということで、そのCDの子を純血種と扱われるのを避けるため、一般的にこういった交配はされないといわれています。

■異系(遠縁)交配(アウトブリード)とは?
異系(遠縁)交配は、特に規定はありませんが、雄と雌が5代遡っても全く関係の無い場合を言います。
実際には、かなり遡らないといけませんが、ほとんどの登録された犬種が共通の先祖から来ているため、全く異なる犬種間で行われる本来の異系交配とは意味が違います。

異系(遠縁)交配による子犬の容姿が似ていることは非常にまれです。
通常は、サイズ、毛皮、色、模様、そして、他の特性に非常に大きな違いが認められます。
異系(遠縁)交配による子犬は一般にヘテロ接合で、その形質を確実に再現する事は難しく、最も素晴らしい子犬を育てても最高の子犬を産むとは限りません。

一般に、異系(遠縁)交配は、ある系統により良い頭やより良い色・より良い前額面等の新しい形質を導入するために用いられます。
普通、その特性をブリーダーのオリジナルな系統の形質として受け継ぎ固定するため、このような交配から生まれた子犬は戻し交配されます。
難しいところは、良い形質を求めるためであったとしても、他の形質も一緒に導入されてしまうかもしれないということです。

*戻し交配:(ある形質(特性)をもった親 (A) と持たない親 (A') との間に生まれた子 (F1) を親 (A) と交配させることです。
生まれた子は Backcross の B または BC であらわされます。
子( F1 および B1 以降)との交配相手は、親 (A) と同じ遺伝子型を持っていれば実親である必要はありません。
(劣性遺伝される)ある特性の形質を発現させたい場合や、在来種にない特性を導入する場合に用いられます。


シクリッドは何を食べますか?

"本来の"異系交配は、血統上全く無関係な犬を一緒に交配することでした。しかし、これは非常にまれです。
もし、あなたが非常に熱心なら、万に一つの可能性を求めて異系(遠縁)交配を続けることができでしょう。
ただし、すぐに良い結果が得られると期待してはいけません。
互いによく補足しあい、容姿の似た犬を選ぶ必要があります。
これは長く難しい道で、最終的には素晴らしい系列を作り出すに至ります。
異系(遠縁)交配を用いると、多くの遺伝性の問題を素早く除去できます。

■系統交配(ラインブリード)とは?
系統交配は、異系(遠縁)交配の一種で、血縁関係が薄い雄と雌の場合の交配をいいます。
例えば、孫娘と祖父、孫と祖母、姪と叔父、甥と叔母などでの交配です。
一般的には、父母両方の2代前に共通の犬がいる場合を言います。
そのため優秀な形質を持った犬が、その血統書の中で何度も見られることになります。
おそらく、この方法が純血種の犬を交配する場合に(そして、新しい犬種を開発する場合にも)最も普通のやり方でしょう。
この方法では、新しい遺伝子はゆっくり導入され、不要な遺伝子はゆっくり置き換えられていきます。
どれくらい強力に系統交配を進めるかによって実際の効率は変わります。
この方法の一番の問題点は、疾患遺伝子を取り除く(望ましい遺伝子を導入する)のに数世代を要するために、多くの子犬が両親と同じ欠陥(長所)遺伝子を持ってしまうことです。
それに、中には勝つことにしか興味を示さないブリーダーもいて、子犬の避妊・去勢契約をしないのです。
これは、その犬種にとって幸運でもあり、また災いでもあります。
非常に注意深いブリーダーであれば、遺伝性疾患の影響を受けた子犬でも、疾患遺伝子を除くために血縁でノンキャリアの犬とだけ交配するでしょう。
このように、責任あるブリーダーは悪い遺伝子を再度取り除こうとします。
これは非常に長いプロセスですが、最終的に同じ犬質の犬が生まれるようになります。
近親交配と系統交配は、程度だけの違いで、系統交配は近親交配よりも障害を引き起こしません。
近親交配を初心者が行ってはなりません。
成功するためには、遺伝学とその血統についての深い知識が必要です。
良い結果を得るためには、綿密に計画された交配とどんな障害が生じても対処できるだけの準備をしておかなければなりません。

■近親交配(インブリード)とは?
近親交配は、雄と雌が非常に近い血縁にある場合です。
例えば、息子と母、娘と父、兄弟と姉妹、腹違いの兄弟姉妹間、いとこ同士等です。
近親交配と系統交配の正確な区別について一致した見解は得られていません。
近親交配は、その系統の中に存在する悪い遺伝子と優秀な特性を見出す最も早い方法です。
この家族近親相姦に賛同する人はほとんどいませんが、どんな疾患遺伝子があるかを調べるにはとても役立つ方法です。
例えば目の疾患遺伝子が隠れているかどうか、この方法を使えば全部見つけ出すことができます。
何も悪い遺伝子が無ければ、(理論的には)非常に均質で同じような子犬が生まれるようになります。
その結果、産まれてくる子犬は両親や祖父母と同じ遺伝形質を持ち、互いに遺伝的に非常に近くなります。
近親交配では新しい遺伝子を導入できません。
すでに存在している悪い遺伝子を除去することもできません。
近親交配によって犬の背景中に隠れている長所と欠点両方の劣性遺伝形質を明らかにできます。
欠点とは、悪い形質の遺伝の可能性があり、近親交配を繰り返していくと最終的には不妊症に至ります。
これはコピー機と良く似ていて、コピー機で非常に多くのコピーをとった後はインクを補給しなければなりません。
動物でもインクを補給するのと同じように、新しい遺伝子を導入する必要があります。
評判のよい責任あるブリーダーは近親交配をめったに使ったりしません。
また、一般のブリーダーでは決して行いません。
通常、近親交配を行っているのは非常に経験豊かなブリーダー又は全く無知なブリーダーあるいは子犬製造工場(パピーミル)ぐらいのものです。

*パピーミル:日本では「悪徳ブリーダー」と呼んでいますが、簡単に言えば「子犬の繁殖工場」です。
       糞だらけの錆びついたゲージに犬を詰め込み、制限節度のない交配をします。
       病気をした犬は放置され、近親相姦によって生まれてくる子犬が異常を
       きたす可能性が大きい環境での繁殖をします。
       経営破綻に陥れば、まるでゴミ同然かのように残った犬を捨てていきます。


近親交配は、まったく同じ血統の二匹を交配してもその犬種のスタンダードが生まれるとは限りませんし、望ましい対立遺伝子も有害な対立遺伝子も複製してしまいます。
近親交配の目的は、おおむね一つに絞られるでしょう。
突出して優れたものを作り出したいというのが主たる目的ですが、天才的な犬が生まれる可能性はごくごく稀で、ほとんどの場合、まったく期待外れな結果になります。
いずれにせよ、近親交配は高い交配技術を持つ人だけが、許される範疇で行うことだと思います。
それはブリーダーとしての鉄則かつモラルで、高い交配技術を持たない人間の近親交配は、悲しい結末を招くだけだと心得るべきでしょう。
優れたものを作り出すためにいかなる交配をしてもいい、ということでは決してないはずです。
何が"種の保存"の理にかなっていて何がかなっていないのか、ブリーダーはモラルを念頭に置きつつ交配する必要があると思います。

■交配にどのように反映させるかというと?
健康なキャリアを見つけるのは非常に難しいことを思い出して下さい。
遺伝的疾患を発症した犬の血統はキャリアを見つけ出すため綿密に調べられます。
例えばPRA(上記の"目について"で記しています)は多くの犬種に共通する疾患ですが、ある共通の先祖を持つ犬がPRAにかかったとします。
その先祖はキャリアとみなされその血統との交配は避けられます。
しかし実際には、ノンキャリア(クリア)が発症しないキャリアから生まれてくることもあるのです。
その発症しないキャリアというのはPRAを発症した犬の子孫なのです。
上記の"遺伝性疾患の遺伝のパターン"で記していますが、キャリア×キャリアでも25%の確立で病気の因子を持たないクリアが生まれるのです。
もちろんこれは子犬1匹あたりの確立ですので生まれてきた子犬すべてにあてはまるわけではありません。
非常に難しいことですがl、遺伝的疾患を発症していないけれども劣性の疾患遺伝子を持った犬を検出できれば、もっと正確な交配ができるようになります。
キャリアが単純な問題であることはめったにありません。
例えばPRAのキャリアと疑われている犬の股関節が非常に健康であるとしたら、PRAも一緒に導入する危険性を承知の上で、ブリーダーは健康な股関節のためにその血統を導入するかもしれません。
一つの障害を除くためには、別の障害を受け入れなければならないということです。
血統を調べることで、その犬がどの程度の遺伝性障害を持っているのかが分かり、あなたの現在の目標に対して容認できるかどうかを判断することができます。
血縁は単なるいとことか叔母/叔父よりも複雑で、どの程度共通の血統を持っているかのパーセント表記が指標とされます。

■相性の良い交配と代償性の交配とは?
相性の良い交配は、最良と最良、最悪と最悪を組み合わせることです。
もちろんですが、最悪と最悪の組み合わせは使われません。
ブリーダーにとって、相性の良い交配というのは、性質と容姿が互いに非常に良く似ている犬同士間の交配です。
このような犬は、互いに密接な関係があるかもしれないし、それほど無いかもしれません。
いずれにしても両親と良く似た子犬が生まれます。
両親が互いに似ているなら、彼らの子犬はさらに良く似るでしょう。
この方法は非常に良く似た集団を作る傾向があります。
代償性の交配とは犬の欠点を正すために行われる、互いにそれほど似ていない犬同士の交配です。
システムは単純ですが、ブリーダーは犬種を良く知りその短所と長所を見極めなければなりません。
両方の犬の血統を注意深く調べ、どこがどのように違っているのか、どのような形質が予想されるかを判断する必要があります。
欠点を正すためには、スタンダードに近い犬が必要で、逆の方向に行き過ぎた犬ではいけません。
つまり、弱々しい骨格を改善したいときは、骨太の犬ではなく正しい骨格を持った犬が必要だということです。
この方法では望みの形質を持つ子犬は生まれてくる子犬の中の1匹か2匹だけになります。

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最後に遺伝とは、すべて曖昧で複雑なことです。
すべての犬種において考慮するべきことは異なっており、簡単に答えを得ることはできません。
遺伝的継承の不確実性が、"交配を正しく行うことは非常に難しい"といわれるゆえんです。

交配を考える場合、限られてた犬種についてだけでなく、幅広い犬種の知識を持っている人や、あなたの犬の血統について良く知っている人がいると非常に助かります。
そのような人からのアドバイスはとても価値があります。

もし遺伝のすべてを知ることができたなら、遺伝性疾患を無くすることができるでしょう。
また、股関節形成異常やPRA、心疾患、甲状腺疾患(ホルモンの異常)、発作なども数世代で除去できます。

しかし、遺伝というものを実際上手に使いこなすことのできる人はほとんどいないのです。
日本では遺伝を熟知し、最良のブリーダーであるといわれる人は5%に満たないといわれています。
遺伝的な疾患を頭に入れ、犬種の保存に努めるブリーダーがいる一方、何も考えず金銭目的でどんどん繁殖を進めるブリーダーもいるというのが現状です。
その結果、遺伝性の疾患で苦しむのは、私たちではなく犬たちなのです。


今現在、いろんな犬たちが人間の生活を支えています。
警察犬、盲導犬、聴導犬、災害救助犬など、人間の想像もつかないような厳しい訓練を経て、人間の生活の場で活躍してくれています。
それだけではありません。家庭で家族として一緒に暮らしている犬であっても、そこにいてくれるだけで癒されるということもあります。
このストレスの多い社会で、犬に助けられることは数え切れないほどたくさんあります。
そういったことからみても、人間は犬に支えられて生きているのです。

交配を考えるなら、疾患を勉強し、遺伝をいうものをよく理解し、疾患を抱えた犬が生まれたとしても、すべてを受け入れる覚悟をしてください。
交配とはいわば、命の創造です。間違っても苦しむ子犬たちが生まれてはなりません。
本当に犬のことを愛しているなら、"正しい交配"をしていくことが大切です。
"正しい"ことを"正しく"行うことこそが、犬にとっても人間にとっても最良の道であると考えます。



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